「新建築」2006年3月号 月評
 私は気づいていなかったのだが、いつからか新建築誌は2月号と8月号は集合住宅特集となっていた。都市のなかで図となるモニュメンタルな巨大建築や単体の公共建築は雑誌メディアとして扱いやすいのだが、都市の中で地となる小資本による建物や居住施設は扱いにくい対象ではないかと思う。しかし、都市のリストラクチャリングは巨大再開発や上位の都市計画だけが担っているのではない。都市の過半を占める壮大な居住の海においても活発な再編が行われている。年2回の特集がそのような都市の組成に関するリポートであると考えれば興味深い。

2月号の集合住宅特集では離散集合体とでも言える配置の「森山邸」をアタマに、「成城五丁目タウンハウス」の複数の計画案や「玉川台2丁目プロジェクト」という分散配置のプロジェクトが紹介されている。さらに配置図を見るとおそらく一戸建ての敷地が集合住宅に建て替えられたと思われる小型の集合住宅や、コンバージョンのプロジェクト、さらには木造の一軒家のリノベーションまで多様である。個々に展開されている個別の戦略が集合し、都市の組成を再編するダイナミックな運動になっているはずだが、雑誌というメディアでは伝わらない。もう少し周辺の環境状況の伝わる写真とか図面または解説がほしいと思った。

2月号は西沢立衛の森山邸に捧げられているようにみえる。つまり表紙、巻頭論文、そして特集のアタマすべてが西沢立衛/森山邸となっている。編集部のただならぬ気配はこの誌面構成から十分に伝わってくる。数日前、西沢立衛と同世代の建築家数人と食事をする機会があったのだが、森山邸の話題だけで議論のつきることはなかった。ポレミックな建築なのだ。

月評担当者を含む十数人で森山邸を訪ねる機会を得た。森山邸は無造作に敷地に投げ出されたような離散集合体である。その集合形式は気まぐれのように見えて、すぐには集合の計画原理はわからない。これまで群構成とか分散配置の集合形式の建築空間は経験しているが、それは何らかの集合原理が簡単に読み取れるものであった。この森山邸に近い感覚は計画者がいないバナキュラーな民家や集落での体験に近い気がする。つまり森山邸のそれは人工的な集合形式ではなく自然集合のように感じるのだ。そこではヒエラルキーのように空間を秩序立てようとする力の構造は無い。この脱力した感覚のせいか、どこにいても心地良く時間を過ごせる。当日の訪問者は三々五々この離散集合体の中で気ままに時間を過ごした。この空間にはどこにも中心がないのだが、どこにいてもそこが中心であるような感覚がある。多様な内部空間と多様な外部空間をもつこの離散集合体は、遍在する中心とでもいえる原理があることに気づく。バナキュラーな集落の離散集合形式では長い時間をかけてそれぞれの空間の関係性が造られる。最初に置かれた家屋に対して、次の家屋を建てる主体の意識が存在し、さらにその次の主体が・・・という集合形式である。この森山邸では計画段階で設計者の意識が構想する空間のあらゆる地点に、しかも同時に存在していたようなそんな感じがするのである。それがこの空間を未だ誰も経験していないもののように感じさせる原因ではないかと思った。森山邸の空間そのものはどこかで経験した既視感のあるものなのだが、その空間を出現させる方法がどこにも存在していなかったのではないか。計画とか意図という重たい概念を置き去りにしてしまう、軽やかなまたは超越的な方法論の存在が感じられた。

「成城五丁目タウンハウス」の妹島和世案はこの森山邸と似た離散集合形式である。SANAAを協働する西沢立衛と妹島和世は建築的アイデアを共有する建築家である。森山邸の集合の単位空間は妹島和世の「梅林の家」を原型としている。この「森山邸の集合形式」と「梅林の家の空間組成」は、ともに巻頭論文で西沢が書いている「名前を要求する空間」なのではないか。そしてそれはコルビュジエの「ドミノ」のように誰でもが使える社会の共有物となるのかもしれない。

森山邸を訪れた時、オーナーの森山さんが昔からの友人のようににこやかに迎えてくれた。ばらまかれた箱の間を風が抜け木漏れ日が差す。敷地の周囲には塀もない抜けの多いポーラスな集合形式である。誰でもが侵入可能な開放系の離散集合体は空間の所有の意識は希薄である。ここは善き人たちがお互いを思い合って住まうおとぎの国のようである。それはかつては存在したのどかな小さな村のような共同体が、現代の都市に突然コピー&ペーストして置かれたような危うさを感じさせる。ひょっとすると、この開放系の離散集合体は私たちがすでに失ってしまった共同体というソフトウエアが無ければ存在できないものであるのかもしれない。そしてさらに巻頭論文の西沢の言葉を借りれば、この空間は都市に共同体を要請する建築であるのかも知れない。  


architecture WORKSHOP
(C) 2005 architecture WORKSHOP Ltd. All Rights Reserved.