「新建築」2006年11月号月評
特集のSmall Structuresを興味深く読んだ。本当にSmallであるかどうかは別にして、紹介されているものは実験的な構法や構造体である。穴空きのLアングルを構造体とする「ガラス作家のアトリエ」は実際に組み立て作業を学生がおこなったそうで巻末のデーターシート施工に参加した学生の名前が一覧で載せられている。40×40×2の単一の部材をその組み合わせを変えて柱梁すべてに使用する。接合のディテールもすべて同じようである。ジョイントプレートだけが部位によっていくつかのパターンを持っている。説明の主題がこのLアングルの骨組みなので外壁や野地板がどのような構法なのかどこにも情報がないのが不満であるが、この手作りで組み立てられる軽い構造体に対応したアイデアがあるのかも知れない。組み立ての作業性まで検討された空間は清々しく心地よさそうである。続いて紹介される「羽根木の森アネックス」は、坂さんがWTC跡地「グランド・ゼロ」コンペティションで提案した構造システムの翻案だと説明されている。 当然のことながら形態は同様であるがスケールと構造的作法はまったく別物である、この構造システムはコンペティションで使われたメガストラクチャーとして存在している方が美しい。しかし、そのSmall Structuresの特集で紹介される作品を、メガストラクチャーから説明するというスケールを横断する語り口に、モノを創るスピリッツが感じられる。

ヨコミゾさんのNYKも富弘美術館の部分を集積したような不思議な構造体である。実物大のモックアップのように見えるのだがそれは、佐藤淳さんの「曲面を積むこと」という解説に、その組み立ての手順がまるで実験を行っているような様子で紹介されていて、この模型のような感覚が納得できる。その解説の中で工場での仮組みの写真が紹介されているが、その仮組みで置かれた裸の構造体の方が魅力的であるように思えた。「神奈川工科大学の工房」は巨大な平屋建築である。ランダムに配置されたように見えるFBの柱が、必要に応じて強軸の向きが変えられて全体として水平力を負担する構造システムのようである。 おそらくこの空間を支えるために、地中には大きな基礎構造とFBの柱頭をつなぐ剛性の高い格子梁が用意されるという構造システムなのだろう。この壮大な空間の室内微気候をどのようにコントロールするのか知りたいところである。そして、この空間が実体化されたとき獲得できるものは何であろうかと思った。

「トレド美術館ガラスパビリオン」では「神奈川工科大学の工房」で検討されている構造形式と類似した空間が既に出現している。ここでは丸鋼の柱は鉛直荷重を受けているだけで、空間の主役となるガラスの配置が優先され、柱は空間の中で従属した存在とされる。水平力を受けるためなのか、ガラスの厚みと同じ鉄板を構造部材としている部位があるようなのだが、その構造システムは不明である。「透明と風景」という巻頭インタビューではガラスの話が主題となり、そのガラスによって全く新しい空間が出現したと語られるが、私にはその新しさは写真からは理解できない。これは、この空間のなかを移動する人間がガラスに反射する光や写りこむ像などの現象を体験できる装置のようなものなのかもしれない。しかし、それは訪ねてみなければわからない。

「Z58」はさらに道具立てが明快な空間体験装置となっている。鏡面のステンレスで作られたプランターのスクリーン、そのプランターには散水装置も仕掛けられて本当の植物が植えてある。 エントランスのアトリウムは水盤が設けられ、そのアトリウムにはリブをつけたガラス壁に滝のように水が流される。写真の紹介が雰囲気を良く伝えているのと具体的なモノの説明が丁寧にされているので、空間の様子は水音まで含めて理解できる。商業空間のようなあっけらかんとした仕掛けに驚くのだが、隈さんの軽やかな文章に上海の気分が伝わってくる。

「CHINA RUSHING」とタイトルされた迫さんの中国での設計活動の報告を読むと、今、中国で行われている壮大な建築的実験の様子が伝わってくる。先日、あるセミナーで同席した大野秀敏さんが日本の現代建築は経済原理と社会制度で規定されると言っていたが、中国で今行われていることは、建築の問題を解く初期設定が異なれば解答は全く別物になるという実験のようである。妹島さんが巻頭インタビューのなかで「外国のプロジェクトをやっていると・・・・設計体勢の違いが全然違う建物に繋がるのだとしたら、興味があります。ある現代性を感じるのです。」と言っているが、中国では全く異なる原理によって建築が生成され、それがひょっとすると次の時代の建築を表現してしまうかも知れない。 説明に使われている北京の中心業務地区完成予想模型と題された小さな写真のなかで、CCTVがそれとは気づかないほど馴染んでいたのが印象的であった。  


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