KARASUMA-OIKE PROJECT
烏丸御池プロジェクトは、北山 恒と関 康子による東京と京都の2拠点計画のための住宅建設であり、
AWNのプロジェクトとして進められている。
レポートの第二回目は、2月下旬の着工以降の経過をご報告したい。
*物件のプロフィール
京都の町家物件には、公益財団法人 京都市景観・まちづくりセンターによる「京町家カルテ」と「京町家プロフィール」という一種の認証制度がある。「京町家カルテ」の目的は、同財団のウェブ(https://kyoto-machisen.jp/)によると「京町家は京都のまちなみ景観を特色付ける木造の伝統的都市住宅です。そこには、京都の暮らしの文化、建築そのものが持つ空間の文化、そして職住共存を基本として発展してきたまちづくりの文化が受け継がれ、現在も息づいています。(略)京町家が、適正に次世代に継承されるために、京町家の価値を京町家カルテとしてまとめるため、所有者やその関係者の認識を深め、適切に維持・管理されていくことを目指しています」とある。
一方「京町家プロフィール」は、同じくウェブでは「京町家カルテよりも簡便な文書として京町家の外観に関する評価をまとめた京町家プロフィールを整備し、所有者やその関係者の認識を深め、適切に維持・管理、および流通されることを目指して」いる。
実際、認証を受けると再建不可物件であっても金融機関から融資を受けられ、さらに京町家まちづくりファンドから助成金を受けるというメリットがある。
私たちは、京町家カルテの趣旨に共感し、京都の町家文化や街並みの保存につながるのであればと考えて、調査を受けることにした。この制度については、この町家を紹介してくれた、京都の味のある物件を扱う不動産会社いえ屋の上村正義さんが段取りをつけて調査にも立ち会ってくださった。
その結果、同物件は、昭和12年課税記録があるが、建物には古材が沢山使われているので、材料から見ると100年以上たっている。昭和25年につくられた建築基準法施行前の物件で現行法規には不適格である。
*再建不可物件を再生する
つまりこの町家は、再建不可物件であり大きな改装はできないという手足を縛られた計画である。しかし逆転の発想でその「不自由」を遊びながら、歴史に繋がる価値を生み出す楽しみもあるということだ。とはいえ、長年空家で雨漏りに晒されていたようで、土台や柱の根元は腐りシロアリにも食われており、「僕に任せなさい」と意気揚々だった北山も初めて直面する事態にお手上げ状態のようだった。そこで、北山と以前からお付き合いがあった滋賀県立大学教授で建築構造の専門家の陶器浩一さんにアドバイスを仰ぎ、建物の健全性をつくるため、最小限の手当てとして骨組みはそのまま(腐った部分は取り替えて)ジャッキアップして基礎をつくることになった。同プロジェクトのコンセプトは「木造の浮き家――町家と現代建築のブリコラージュ」はどうか。
*プロジェクトチーム
プロジェクトは北山が設計、全体のディレクションを行うが、何といっても東京と京都との距離、日本のボロ町家建築とモダンの融合、ダブル旗竿の再建不可物件という課題の多い工事であるため、実に多くの方々が参加するチームによって進行している。
北山をフォローする設計監理協力には、京都に事務所を持つY-GSA卒で北山の教え子である建築家の川畑智宏さん、構造アドバイスは先述の陶器浩一さんと陶器さんのパートナーである高橋俊也さん、施工はその陶器さんの教え子で大工さんになった木々のや(くくのや)を主宰する奥村英史さん、造園(と言っても猫の額ほどの庭ですが)は奥村さんの友人のオイコス庭園計画研究所の笹原晋平さん、設備アドバイスにはピロティと照明アドバイスには岡安泉さんらが忙しいなか参加してくださっている。
このプロジェクトは始まる前に京都の知人から、「京都の仕事は人のつながり、人の紹介が大きい」と言われていたが、今回は北山の建築系ネットワークと、滋賀県立大学の陶器さんのネットワークで、小さい物件にもかかわらずやる気のある若い方々を中心に、楽しくプロジェクトが進んでいる。
★工事開始ジャッキアップについて
2022年2月下旬、メンバーがそろったところでいよいよ着工した。
烏丸御池プロジェクトの京町家は、再建不可物件なので建物の外形を変えることはできない。建物の基礎を構築するためのジャッキアップといっても、建物を持ち上げるのではなく、ジャッキを使って建物躯体を浮かせて、基礎工事を行う必要がある。大半の京町屋は「石場建て」といって基礎はなくて束石という石の上に建物を置いているだけ。 日本の多くの寺院や多重塔などがこの工法で建てられている。それで地震時は建物が跳ねて倒壊を防いでいるが、今回はこれからのことを考慮してコンクリートの基礎をつくって耐震性能を確保することにした。このジャッキアップは最重要工程だったが、陶器さんの下で建築を学んだ奥村さんとそのチームの方々のスキルでスムーズに実行できた。その分、通常の新築に比べると費用が掛かってしまったが、そこは京町屋の魅力を継承するという目的のためなのだからと仕方ないことだ。
ジャッキアップに伴う基礎。
写真には新材がたくさん写っているが、それは木造骨組みを固めるための仮設材である。
再生補強材としてできるだけ現場で再利用する。
★基礎から骨組、壁・床の工事へ、そして……
ジャッキアップを伴う基礎工事は4月中旬から5月上旬、その後は柱・梁の骨組みの再生補強工事を終了し、7月上旬の現在は壁、床、屋根、外装といった面工事が進んでいる。これが終わると9月中旬の竣工を目指していよいよ内装、庭に取り掛かることになる。
ここに当初予測もしなかった実に京都らしい新たな課題が浮上した。インターネットの引き込み工事である。現在の住宅建築は建物のハードは当然だが、インターネット環境の整備も重要だ。京都の中心部は古くは平安時代からの街並みが地層のように重なっており、土地の所有やインフラ環境も複雑に入り乱れて、ある意味その場しのぎで整備されている。そのためダブル旗竿敷地の同プロジェクトはインターネット配線がなかなか難儀で、京都特有の多角的な対応が求められている。
とはいえ、工事は着実に進んでいる。京都の夏の強烈な暑さの中で工事にあたってくれている木々のやのみなさん、課題が浮上するたびに最適解を模索してくださっている川畑さんをはじめとしたチームの方々に心から感謝!(関 康子)
床、壁、屋根の工事
複雑なインフラ整備の現状