photo by DAICI ANO
House in Regionality
建築:architecture WORKSHOP / 北山恒・諸橋奈緒
構造:構造計画プラス・ワン
設備:ZO設計室
施工:前川建設
鎌倉時代からの集落のなかにある屋敷の建替計画である。辻堂の地名のいわれとされる寺が直近にあり、古地図をみると計画地は辻を中心にぎゅっとまとまった集落のほぼ真ん中に位置している。今も辻堂の駅から敷地に向かうと道の線形が突然変わる不連続な境界があり、そこに古くからの構えの屋敷群が現れる。近代以前の街の構造がある。
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たとえば大きな境内地をもつ屋敷があり、そのまま中に入れるので公地から知らずに民地に入っていたり、2尺幅の路地を入ると鳥居と祠があって、その祠の裏を廻ると大きな広場になっていたりする。一見すると散漫な集落にみえるのだが、知るようになると奥行きのある濃密な空間が存在していることがわかる。
集落内のつきあいは緊密で、地縁社会での様々な行事が営まれている。集落で行う祭りごとがいくつかあり、それに戸々の屋敷も参加する。ひとつの住宅があたりまえのように公的な役割を持たされている。それは関東大震災直後に建てられたこの住宅の建替前の建物からも読み取ることができる。既存家屋は何故か東向きに配置されていたのだが、この配置によって道に面して設けられていた屋敷門を開けると、客人の前に奥行きのある庭が現れる。
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その屋敷門をくぐると右手に大きな構えの玄関があり、客人が来るときは戸は開け放たれていた。それは住宅の中に公的領域をもつことを示しているのだが、このような客人に対する空間の設えが集落と住宅の間を調停しているように思えた。
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この集落、または屋敷の持つコンテクストを尊重しながら、現代的な建築空間として解くことが希望された。住宅の中の公的領域はそのまま継承し、既存の庭を残こすので、もとの家屋とほぼ同じ配置計画となる。施主の要望は「和風の設え」である。
それに応える建築の作り方として、2枚のプレートの間に流れるようなワンルームの空間を設け、そこに、おおらかに拡がる平面を、1.5間(2,730mm)の木割モデュールで構成し、大きな建具でそれを仕切るようにして内部空間をつくることにした。可変性の高い内部空間は様々な行事に対応することが可能な社会化された場となる。
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空間の拡がりとその構造性、そして、それがつくる「空間の道具性」を「和風の設え」であると考えた。この空間の道具性をさらに強化するように、建築部位を構成する素材を土木的に扱っている。それは具体的には、性能に対する価格が合理的である素材を、顕わしのままドン付けという、ぶつけるようなディテールで納めるということである。
施主は橋梁工学の研究者であり、合理的な問題解決の精神を持っている方なので、このようなアプローチを理解していただけた。さらに、外部と内部の仕切りには縁側のような空間を設け、関東の伝統的な倉に用いられる浮き屋根を置いた。このような空間装置で日本の伝統的家屋がもつパッシブな温熱環境を再現している。
(北山恒)
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所在地 神奈川県藤沢市
用途 住宅
敷地面積 583.86m2
建築面積 252.38m2
延床面積 256.64m2
階数 地上2階
構造 1F:鉄筋コンクリート造 2F:木造
竣工 2014年2月
掲載 作品選集2016
新建築住宅特集 2016年8月号
JIA建築年鑑2015
日本建築学会作品選奨受賞
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