KARASUMA-OIKE PROJECT

烏丸御池プロジェクト04

北山恒+AWNが進める烏丸御池プロジェクトは、北山 恒と私(関 康子)の東京と京都の2拠点計画のための住宅。

9月中旬に約半年の工事期間を経て竣工し、本レポートもいよいよ最終回である。

 


 

  • 大壁構法の空間×古建具=?

2022年8月下旬、「木造の浮き家――町家と現代建築のブリコラージュ」がテーマの烏丸御池プロジェクトの工事もいよいよ終盤を迎えた。もともとの町家の「柱の状態がかなり悪かったので柱を見せる真壁構造ではなく、 構造用合板で柱を被せる構法(大壁構法)が合理的と判断した(北山談)」という空間の全貌が見えてきた。そのミニマムな空間に残置されていた古建具、例えば雪見障子や間柱の古材をとり込んでいく段階になったのだ。川畑さんと奥村さんが大切に保管してプロフィールまで作成してくれた9本の間柱の古材を1階の3カ所の付け柱に、きれいに手入れされた雪見障子と網代建具は2階の部屋に取り付けられた。「いかにも京町家のリノベーション」というのではなく、「町家と現代建築のブリコラージュ」が実現されているように感じる。

古材の建具が1階、階段、2階に取り付けられて、生まれ変わる。

  • 二つの庭

ダブル旗竿という特殊な敷地にあるこの建物は南北に細長い京都独特の町家形式であり、四方を住宅や低層マンションに囲まれているのでほとんど外観を見ることはできない。唯一開かれているのは小さいに庭に面した南と北の側面だけだ。別の言い方をすれば、この建物は南北の庭を結ぶトンネルのような空間なのだ。だから、庭とその関係をつくる建具こそがこの住宅の主役と言うこともできる。

私は植物が好きで、東京でも室内とベランダで植物を育てている。だから本プロジェクトのなかでも特に庭造りには興味があった。そこで奥村さんから紹介いただいたオイコス庭園計画研究所の笹原晋平さんに参加いただき、植栽する木々の選定と買い付け、残置されていた庭石や二つの灯篭の配置などを含めて何度か話し合いの機会をつくっていただき、最終的にお任せした。

工事はほぼ3日間、1日目は庭の基礎、2日目は植栽、3日目が仕上げである。北山と私は2日目から庭造りの現場を見学させていただいた。当日は笹原さんを含めて4人の職人さんが入って、庭のシンボルとなる山椿やモミジの木を手際よく植え付けていく。欲張りな私は椿とモミジ以外にもあれもこれもといろいろな草木をリストアップして笹原さんにお伝えしていたのだが、狭い庭にすっきりとまとめてくださった。残置されていた春日と織部の二つの灯篭をそれぞれ北と南の二つの庭に置いたことで、古い町家から新しい町家へと時の流れもつながったように思った。さあ、いよいよ引っ越しを待つばかりである。

南側、モミジの庭の造作の様子と北側、工事中の山椿の庭。
残置の二つの灯篭も新しい場を獲得した。

  • 引っ越し

工事が少しだけ残っていたが、9月下旬に引っ越しを強行した。北山は「空間と庭が引き立つようになるべく物を置きたくない」と強調するし、セカンドハウスなのだからと自分を納得させて最低限の家具や道具だけを持ち込むことに。

基本は東京の家にある家具を移動した。例えば、30年前に買ったB&B社アントニオ・チッテリオがデザインしたSITYシリーズのソファ、買った当時はお気に入りだったが日本の家屋には大きいし頑丈すぎた。そのため来客時のベッドや物置と化していたのだが、新しい場所を得て見事に生き返ってくれた。それから北山の実家で使っていた40年以上の年季が入ったYチェア、アームが経年変化でいい具合に色づいていたのがこの空間にはピッタリだ。置く場所を変えたことで、30年、40年を経た家具たちが居心地よさそうに存在しているのを見るのはうれしい限りだ。

南から北庭を臨む、町家と現代建築のブリコラージュ?

もちろん新調した家具もある。ひとつは1年前に近くの「ギャラリー素形」の展示で見つけた昭和初期の水屋棚。経年によって味わいが増した木素材に歪んだレトロな硝子板がはめ込まれている。完成するまで素形さんでディスプレイ棚の役割を果たし、満を持して我が家にやってきた。天板が痛んでいたが職人さんに補正していただき、すっかり見違えた。素形さんと言えば、この町家を買う動機にもなった仲條正義さんの個展を開いていたギャラリーでもある(詳細はレポート1参照)。

それからダイニングテーブル。既製品にすべきか悩んだが結局オリジナルで制作することに。脚部は北山がデザイン。天板は、やはり奥村さんに紹介いただいた平山日用品店の平山和彦さんと真喜子さんに依頼。宇治のアトリエを訪ねて木材を選び、サイズや仕上げを確認して制作していただくことに。その天板に北山デザインの脚部を合体させるのだ。

 

ネットで気にいった商品をサクッと見つけてボチッと押してカード決済で物を買うことに慣れている私にとって、庭(植物)も、水屋棚も、ダイニングテーブルも、納品(完成)するまで時間も手間もかかり面倒臭いなあという思いがあった。いや、この烏丸御池プロジェクト自体、既成のマンションや住宅を購入するのとは違って、物件探し→設計→工事⇔修正⇒工事と、大変な労力が必要だった。こんなチャレンジができたのは、やはり建築家である北山と、サポートしてくださった川畑さん、施工の奥村さんらプロの方々の熱意があればこそ。加えて、庭や植物、家具や道具を愛する方々から専門的なお話を聞けて、今後も何かあったら相談の乗ってもらったり、メインテナンスを通して関係がつながっていくのだろう。こんな感じもいいなあと思える、思わせてくれるのが京都なんだと感慨もひとしお。

さあ、烏丸御池の我が家も完成した。この場所で東京=京都、TOKYOTO、どんな生活や出会いがあるのか、ワクワクしている。そしてこのプロジェクトに参加してくださった皆さまに心から感謝申し上げます。ありがとうございました。(関 康子)

水屋棚の天板の修繕風景

テーブルの天板を依頼した平山日用品店のワークショップ

納品時のテーブルと組み立ての様子